民法(相続法)の改正について(その4)

 民法(相続法)は、日本の高齢化の進展や社会経済活動の変化に対応して、残された配偶者の生活に配慮するなどの観点から、昭和55年以来、約40年ぶりの相続に関する大改正・見直しが行われ、平成30年7月6日、可決・成立し、平成30年7月13日に公布されています。

 今回はそのうちの、相続人でない親族の金銭請求権の創設(「特別寄与料」の支払い)についてです(民法1050条)。

1.概要

 相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養、介護等を行っていた場合には、一定の要件のもと、相続人に対して「金銭」を請求することができる制度が創設されました(注)。

(注)民法第725条(親族の範囲)では、親族は6親等内の血族、3親等内の姻族などであり、親族関係にない他人は、「特別寄与料」の支払いの対象になり得ません。

(1) 特別の寄与としての請求が認められる要件は、被相続人の親族が、
「特別の寄与があること」
「被相続人に対して相続財産の維持や財産の増加への貢献と因果関係があること」
「無償で被相続人の療養、介護等、その他の労務の提供を無償で行っていたこと」
 が挙げられています。
(2) 相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養、介護等を行っていた場合には、相続人全員に対して金銭の請求(相続人が複数いる場合には、相続分に応じた割合を負担)することが可能となりました。
(3) 従来の民法規定としては、「寄与分(民法904条の2)」の制度がありますが、この制度は、共同相続人間の相続分を調整するための制度であり、今回の法改正で創設された「特別の寄与」は、相続人でない被相続人の親族が共同相続人に対して、「特別寄与料」を請求するという制度であるといえるものです。
(4) 改正前では、相続人以外の者(被相続人以外の親族に限定)が、被相続人の生前に療養、介護等に尽力していたとしても、相続財産を取得することはできませんでしたが、今後は相続開始後に相続人に対して、金銭を請求することが可能となったことから、療養、介護等の貢献に報いることができるようになり、実質的な公平が図られることとなりました。
(5) 相続人(相続を放棄した者(民法939条)、相続欠格事由に該当した者(民法891条)、廃除により相続権を失ったもの(民法892条)も含む。)は、今回の改正による「特別寄与料」の請求は不可とされています。理由は、相続人には「特別の寄与」の事実が認められると「寄与分」として請求が可能となっていることによるものです。
(6) 従来までの遺産分割の手続きが、今回の改正に伴って複雑になることを避けるため、改正前と同様、相続人だけで遺産分割を行い、「特別寄与者」が相続人に対し「特別寄与料」を金銭請求する方法が認められることなったものです。
(7) この「特別寄与料」の支払の請求は、「特別寄与者」が、相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過した後にはできないこととされています。
短期間で支払の請求の行動を起こす必要がありますが、この期間を経過した後には、家庭裁判所への協議に代わる審判などの処分を請求することができなくなりますので注意が必要です。
また、「特別寄与料」として請求できる金額の目安としては、療養、介護等などの貢献の内容や機関の長短も影響しますが、遺産としての相続財産の1割程度と想定されているようです。
「寄与分」については、遺産分割協議の段階で金銭等調整することが穏便な解決方法ですが、協議が整わない場合には、家庭裁判所において遺産分割調停を行うこととなります。
(8) この「特別寄与料」の支払いを受けた「特別寄与者」は、相続人以外の被相続人の親族であることから、共同相続人から受領した金銭は、被相続人の相続税の計算上、遺贈によって遺産を取得したものとして課税関係が生じ、「特別寄与者」は相続税額の2割加算(相続税法18条)の対象となります。

(注)共同相続人(金銭の支払いをする相続人)が「特別寄与者」(金銭を受け取る者)に対して支払う金銭に代えて、「特別寄与料」に相当する金銭債務の履行をするために、不動産などの資産の移転(代物弁済(民法482条))をした場合、代物弁済は譲渡に該当するためその履行をした者(共同相続人)については、原則として、その履行により消滅した金銭債務の額に相当する価額によりその資産を譲渡したとされ、譲渡所得として所得税の課税対象となる場合がありますので注意が必要です(所得税法33条、所得税基本通達33-1の5)。
(9) 「特別寄与者」は被相続人の相続開始後に共同相続人に対して、その「寄与分」に応じた額を金銭の支払いとして請求することが可能です(民法1050条第1項)。
(10)「特別寄与料」の支払いについて、当事者間での協議が整わない場合や協議することさえもできない場合には、「特別寄与者」は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することになります(民法第1050条第2項)。
調停を申し立てる方法と審判を申し立てる方法がありますが、調停で合意できなかった場合は自動的に審判に移行します。申立先は、調停の場合には相手方の住所地,審判の場合には相続開始地を管轄する家庭裁判所となります。
ただし,調停・審判いずれについても,相手方との間で管轄する家庭裁判所について合意ができており,申立書と共に管轄合意書を提出された場合には,その家庭裁判所に申立てをすることができます。
審判となった場合、家庭裁判所は、特別寄与の時期、方法とその程度、被相続人の相続財産の額その他一切の事情を考慮して、「特別寄与料」を定めることとなります。この場合、家庭裁判所は共同相続人に対して金銭の支払いを命じることとなります。
(11)家庭裁判所からの「審判の告知」を受けた日から2週間で確定することになりますが、「特別寄与料の額」については、家庭裁判所が決めることとなり、上記(10)の状況を踏まえて、被相続人が相続開始の時点で有していた相続対象財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできないとされています。
相続人が複数いる場合には、各相続人がその相続分に応じて負担することとなります(民法第1050条第1項、第5項)。

2.施行日

 施行日は令和元年7月1日です。
施行日以前に開始した相続については旧法が適用され、改正法は、施行日以後に開始した相続について適用されます。