民法(相続法)の改正について(その5)

 民法(相続法)は、日本の高齢化の進展や社会経済活動の変化に対応して、残された配偶者の生活に配慮するなどの観点から、昭和55年以来、約40年ぶりの相続に関する大改正・見直しが行われ、平成30年7月6日、可決・成立し、平成30年7月13日に公布されています。

 今回はそのうちの、遺産分割協議前での金融機関の「預貯金の払戻し制度」の創設についてです(民法909条の2)。

1.概要

 相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用や相続債務などの支払いなどの資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも払戻しが受けられる制度が創設されました。
預貯金が遺産分割協議の対象となる場合に、各相続人は遺産分割協議が調う前でも、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになりました。
 改正前では、被相続人名義の預貯金口座からの引き出しには、相続人全員が同意、つまり遺産分割協議が終了するまでの間は、相続人単独では預貯金債権の払戻しはできないとされていました。
遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるように、次の2種類の「預貯金の払戻し制度」が認められることとなりました。
(1) 家庭裁判所の判断を経ずに払戻しが受けられる制度の創設

 遺産に属する預貯金債権のうち下記の計算式で求められる額については、共同相続人による単独での払戻しが認められます。
ただし、同一金融機関での払戻し可能な金額は150万円が限度となります。

[計算式]
単独で払戻しができる額
=「相続開始時の各金融機関別の預貯金債権の額」×1/3×「払い戻しを受ける共同相続人の法定相続分」
(注)各金融機関の口座ごとの算定で、同一金融機関の場合は、支店別や預金口座の区分に関係なく全ての預金ごとに計算を行います。

(2) 保全処分の要件緩和(預貯金債権限定の家庭裁判所での仮分割要件の緩和)

 仮払の必要性があると認められ、かつ他の共同相続人の利益を害さない場合に限って、家庭裁判所の判断により、遺産に属する預貯金債権の全部または一部を仮に取得し、金融機関から単独で払戻しを受けることができます

 この「預貯金の払戻し制度」の創設によって、各相続人は、遺産分割協議が調う前でも、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになり、特に無収入の配偶者などの相続直後での当面の生活費や葬儀費用の支払資金の確保が可能になりました。
 一方、この制度で払戻された預貯金の金額については、後日、「預貯金の払戻し制度」を利用して引き出した相続人の遺産の先取り分として控除するなどの調整することになります。
民法909条の2の規定にもあるように、相続人が遺産の分割前における「当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」とされており、相続税の申告においては、分割済の資産として取り扱うこととされています。

2.施行日

 施行日は令和元年7月1日です。
なお、相続開始日が施行日前であっても、預貯金の引き出し日が施行日以後の場合は、改正法が適用されます。