民法(相続法)の改正について(その6)

 民法(相続法)は、日本の高齢化の進展や社会経済活動の変化に対応して、残された配偶者の生活に配慮するなどの観点から、昭和55年以来、約40年ぶりの相続に関する大改正・見直しが行われ、平成30年7月6日、可決・成立し、平成30年7月13日に公布されています。

 今回はそのうちの、遺産分割前の遺産の使い込みへの対応(遺言執行者の権限の明確化)についてです(民法906条の2)。

1.概要

 相続開始後に共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分した場合には、遺産分割の計算上生じる不公平を是正する制度が創設されました。
(1)相続開始前に共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分した場合、特別受益のある相続人が遺産分割前に遺産を処分した状況にあっては不公平な結果が生じることから、計算上生じる不公平を是正する方策として法律上の規定を設けることとしたもので、処分された財産(預貯金)を遺産に組み戻すことについて、処分者以外の相続人全員の同意があれば、処分者の同意を得る必要がなくなり、処分された預貯金を遺産分割の対象財産に含めることを可能として、不当な出金がなかった場合と同様の結果を実現できるように手当したものです。この改正により、早期に紛争の解決が図られることに寄与するものとなりました。
(2)遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲については、民法第906条の2の規定では、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人はその全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができるとされました。
また、同法の第2項では、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該相続人については、同項の同意を得ることを要しないとし、処分者の同意を得る必要がなくなり、この点でも、早期の解決に寄与することとなります。
(3)このことは、民法の規定での遺産分割については、遡及効を認めており、遺産の分割前において処分済みの財産を遺産分割の対象財産に取り込むことを容認することになります。
(4)今回の法改正で「遺言執行者の任務の開始」として、民法1007条には「遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。」とし、第2項では「遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。」と規定されています。
遺言者は遺言での遺言執行者を指定できるとし、この遺言者の指定は一方的な指定であり、遺言執行者に指定された者は就任するか断るかは自由ですが、遺言執行者は就職することを承諾した場合には、遺言執行の事務・任務に直ちに着手することが求められています。
(5)民法1012条には「遺言執行者の権利義務」として、「遺言執行者は遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」とされています。第2項では「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。」と定められています。加えて第3項には「遺言執行者について準用する規定」(民法第644条、第645条から第647条まで及び第650条)が定められています。
(6)民法第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)には、「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」とされており、同条第2項には、「第1項の規定に違反してした行為は、無効とする。」とされています。
(7)民法第1014条(特定財産に関する遺言の執行)では、前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用し、第2項では、遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」といいます。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができるとし、第3項には、前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預貯金の払戻しの請求及びその預貯金に係る契約の解約の申入れをすることができるとされています。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限るとされています。第4項には、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従うとされています。
(8)民法第1015条(遺言執行者の行為の効果)では、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずるとして、遺言執行者の権限が強化されています。
(9)民法第1016条(遺言執行者の復任権)には、遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるとされています。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うとされており、第2項では、前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負うとされています。

2.施行日

 施行日は令和元年7月1日です。
施行日以後に開始した相続について適用されます。