民法(相続法)の改正について(その7)

 民法(相続法)は、日本の高齢化の進展や社会経済活動の変化に対応して、残された配偶者の生活に配慮するなどの観点から、昭和55年以来、約40年ぶりの相続に関する大改正・見直しが行われ、平成30年7月6日、可決・成立し、平成30年7月13日に公布されています。

 今回はそのうちの、相続財産の登記に関する改正(法定相続分を超える部分は要登記)についてです(民法899条の2 共同相続における権利の承継の対抗要件)。

1.概要

 法改正以後(令和元年7月1日以後)に開始した相続については、相続後の名義変更を速やかに行う必要があります。
(1) この法改正は、相続開始後の名義変更手続きに関するものです。改正前は、不動産などを相続した場合における名義変更を急ぐ必要がなかったというのが一般的でした。法定相続分と異なる内容の遺言があった場合、登記簿上での不動産の名義変更などの手続きが遅れたとしても、その相続人の権利を第三者(自分以外の者)に主張(対抗)することが可能だったからです。このため、従来は、相続による名義変更はとかく後回しにされることが多くありました。
一方、不動産の売買等の取引にあっては、契約が成立した後、購入者は速やかに当該不動産の名義変更手続きが行われるのが従来から通常の法律行為となっています。もし、速やかな名義変更が行われない場合、その未登記のままの取得者はその権利を第三者に主張することはできません。購入者が名義変更せず旧所有者名義のまま放置し、旧所有者が第三者に名義を変更した場合は、その第三者の権利が優先されることとなります。
 法改正後は、相続の場合にも、従来の不動産売買と同様な考え方を適用することとなりました。この結果、相続登記(不動産の名義変更)を速やかに行わない場合、相続人が被相続人から相続した不動産の権利を第三者に主張できない場合が生じることとなりました。改正により、登記なくして対抗できる部分は、その相続人の「法定相続分」に限定されることとなりましたので、相続人が遺言などにより法定相続分を超える部分の遺産を取得している場合、その権利を第三者に対抗するためには、相続登記等の手続きを速やかに実行しておく必要があります。
 この改正では、遺産として不動産を相続した場合に限られず、銀行預金などの債権を相続した場合にも適用されることとなりましたので注意が必要です。
(2)民法第899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)では、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかにかかわらず、民法第900条(法定相続分)及び民法第901条(代襲相続人の相続分)の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することはできないとし、第2項ではその権利が債権である場合、民法第900条(法定相続分)及び民法第901条(代襲相続人の相続分)の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が、当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして、債務者にその承継の通知をした時は、共同相続人全員が債務者に通知したものとみなして、第1項の規定を適用するとあります。
 この規定は、相続財産の帰属を定めた規定ではなく、第三者への対抗要件の規定ですから、税務上の課税関係に影響を与えるものではありません。相続税の課税計算では、遺言に基づく遺贈行為や遺産分割協議に従って、財産を取得した各共同相続人が納税義務者となって、相続税の納税義務を負うことになります。

2.施行日

 施行日は令和元年7月1日です。