民法(相続法)の改正について(その8)

 民法(相続法)は、日本の高齢化の進展や社会経済活動の変化に対応して、残された配偶者の生活に配慮するなどの観点から、昭和55年以来、約40年ぶりの相続に関する大改正・見直しが行われ、平成30年7月6日、可決・成立し、平成30年7月13日に公布されています。

 今回はそのうちの、遺留分制度の見直し(原則として金銭での弁済で解決)についてです(民法第1042条~第1049条)。

1.概要

 改正前の「遺留分減殺請求権」の行使によって、物権的効果が生じるとされていた規定を見直し、遺留分の行使によって「遺留分侵害額」に相当する「金銭債権」が生じるものとしました。
 また、受遺者等の請求により、金銭債権の全部または一部の支払について、家庭裁判所が相当の期限を付与することが可能となりました。
(1)「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の相続人について、その生活保障を図る観点から、最低
限の相続分を確保する制度です。
改正によって、「遺留分権利者(遺留分を侵害された者)」は、遺贈や生前贈与などを受けていた者に対して、「遺留分侵害額」に相当する「金銭の支払いを請求」することができるようになりました。
(2)さらに、遺贈や生前贈与を受けていた者が、金銭を直ちに準備できない場合は、裁判所に対して相手方に対する支払期限の猶予を求めることができるようになりました。
(3)改正前は、「遺留分減殺請求権」の行使により、目的財産は受遺者又は受贈者と遺留分
権利者との共有になることが多く、目的物の円滑な処分に支障をきたしたり、共有関係の解消をめぐって新たな紛争が生じたりするなどの弊害がありました。
改正後は、「遺留分侵害額請求権」の行使に変更されました。
金銭請求に一本化することによって、不自然な共有関係が生じることを回避することが可能となりました。また、遺贈や贈与で目的財産を受遺者に与えたいという遺贈者(被相続人)の意思を尊重することも可能となりました。
(4)「遺留分侵害額請求権」は、「遺留分権利者」が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効により消滅してしまいます(民法第1048条第1項)。
また、相続開始の時から10年間が経過した場合、「遺留分侵害額請求権」は除斥期間により消滅します。
消滅時効・除斥期間により遺留分侵害額請求権が行使できなくなってしまう前に、早めの対応が必要です。
(5)上述のとおり、改正後は、「遺留分権利者」は、遺贈や生前贈与などを受けていた者に対して「遺留分侵害額」に相当する「金銭の請求」をすることができるようになりましたが、この金銭に相当する部分を土地や建物など譲渡所得の対象となる資産を代物弁済として相手方に引き渡した場合には、その代物弁済に充てた資産の時価相当額は譲渡所得の収入金額とされることがあります。
この「遺留分権利者」に引き渡す資産については、被相続人から相続等で取得した資産か自己が従来から所有していた資産のいずれであっても、土地や建物など譲渡所得の対象となる資産であれば、譲渡所得の対象として同様の取り扱いとなりますので注意が必要です。

2.施行日

 施行日は令和元年7月1日です。