民法(相続法)の改正について(その9)

 民法(相続法)は、日本の高齢化の進展や社会経済活動の変化に対応して、残された配偶者の生活に配慮するなどの観点から、昭和55年以来、約40年ぶりの相続に関する大改正・見直しが行われ、平成30年7月6日、可決・成立し、平成30年7月13日に公布されています。

 今回はそのうちの、「配偶者居住権」の創設についてです(民法第1028条~第1036条)。

1.法改正の背景

 日本の社会は、
(1)生活を支える生活形態の最小単位への変化
(2)高齢化の急激な進展で、配偶者の一方の死亡後の生活保障の必要性の高まり
(3)家族観の多様化により、未婚者間での子の出生率の高まり
(4)結婚への意識の変化で、晩婚化、非婚化、少子化、高齢者の未婚の子との同居世帯の増加、単身・独身世帯の増加傾向の顕著化
(5)離婚に関する意識の変化に基因する離婚件数の増加
(6)平均寿命の伸長による老後の生活資金の確保の要請
など、家族関係が複雑となり、今までにないような争いも多くなってきました。
 こうした新しい時代への対応と家族の在り方の変化に対応する必要性がありました。

2.概要

 被相続人の死亡により、その相続財産のうち、配偶者の居住していた建物および敷地の所有権を取得しないとしても、その建物や敷地を対象として、終身または一定の期間、配偶者にその使用・.収益を可能とする法定の権利(賃借権類似の法定の債権と考えられています。)の取得を認めるため、「配偶者居住権」を遺産分割等における選択枝の一方法として創設しました。
 この結果、配偶者が相続開始時に被相続人が所有していた建物に無償で居住していた場合、配偶者は遺産分割等において「配偶者居住権」の取得により、終身又は一定の期間、その居住建物に無償で居住することが可能となりました。
 改正前は、被相続人の遺産構成によっては、配偶者が居住建物を相続により取得しただけで相続分に到達し、遺産分割協議の結果、金融資産など他の財産を取得できなくなるという事例も多くありました。今回の改正により、配偶者は自宅での居住権を確保しながら、その他の金融資産を取得することが可能となりました。
相続後における配偶者の生活に苦慮する事態を避ける一助となります。
 なお、被相続人が遺言などで遺贈(死因贈与を含む。)することで、配偶者に「配偶者居住権」取得させることも可能です。

3.施行日

 施行日は令和2年4月1日です。