「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」の相違について

 

 「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」の相違の主なものについてまとめてみました。

1.権利の取得事由の違い

 「配偶者居住権」は、相続開始時点において、被相続人の遺産に属する建物(被相続人の所有していたものに限定)に居住していた配偶者が、遺産分割協議、遺贈又は遺産分割の審判によって取得すると規定されています(民法第1028条第1項、第1029条)。
 一方、「配偶者短期所有権」は被相続人の相続開始の日から「配偶者居住権」への繋ぎの役割を果たす位置づけと考えられているようです。
残された配偶者が,亡くなった人の所有する建物に居住していた場合,遺産分割協議がまとまるまでか,協議が早くまとまった場合でも被相続人が亡くなってから6か月間は無償で建物に住み続けることができると規定されています(民法第1037条第1項)。
遺言などで配偶者以外の第三者が「居住建物」を取得した場合,第三者はいつでも配偶者短期居住権を消滅させるよう申し入れすることができますが,その場合であっても,残された配偶者は申し入れを受けた日から6か月間は無償で建物に住み続けることができます。

2.権利の期間の違い

 「配偶者居住権」の期間は、原則として配偶者の生存中(終身)は存続しますが、存続期間を遺産分割協議書、遺言若しくは遺産分割の審判などで定めた場合は、それぞれ定めた日となります(民法第1030条)。
 「配偶者短期所有権」の期間は、遺産分割協議がまとまるまでか,協議が早くまとまった場合でも被相続人が亡くなってから6か月間とされています。

3.遺産分割

 「配偶者居住権」は、遺産分割の対象財産となります。
相続開始時点において、被相続人の遺産に属する建物(被相続人の所有していたものに限定)に居住していた配偶者が、遺産分割協議、遺贈又は遺産分割の審判によって取得すると規定されています(民法第1028条第1項、第1029条)。
 「配偶者短期居住権」は、遺産分割の対象財産となりません。

4.登記

 「配偶者居住権」は,成立要件を満たしていれば,権利として発生していますが,「配偶者居住権」を第三者に対抗するためには登記が必要であり,居住建物の所有者は配偶者に対して配偶者居住権の登記を備えさせる義務を負っています。
「配偶者居住権」の設定登記は配偶者(権利者)と居住建物の所有者(義務者)との共同申請となります。
配偶者居住権の設定登記ができるのは建物のみで,その敷地である土地には登記できません。
ただし、登記は「配偶者居住権」の設定要件ではありません。
 「配偶者短期居住権」は登記の制度がありません。ただし、最低でも相続開始後6か月間は保護されます。

5.使用収益権

 「配偶者居住権」を取得した配偶者は、居住する建物の全部について、無償で従前の用法に従い善良な管理者としての注意(いわゆる「善管注意義務」)をもって、使用及び収益することが可能となります(民法第1032条第1項)。
この規定の内容は、他人の物を管理する場合の注意義務が課されていることになります。
 「配偶者短期居住権」を取得した配偶者は、その建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者に対し、一定期間、居住建物を無償で使用する権利(一部のみを無償で使用していた場合は、その部分について無償で使用する権利)を有します(民法第1037条第1項)。
ただし、配偶者が、相続開始の時に居住建物に係る「配偶者居住権」を取得した時や、相続人の欠格の規定(民法第891条)や廃除の規定(民法第892条、第893条)によって相続権を失った時は、この限りではないとされています。

6.遺産分割における権利の評価

 「配偶者居住権」は特別受益として評価され、相続税の課税対象となります。
 「配偶者短期居住権」は財産性がなく、遺産分割の対象財産として考慮する必要はありません。評価する必要はありませんし、相続税の課税対象となりません。