「インボイス制度(適格請求書保存方式)」の準備はできていますか?意外と時間はありません! お急ぎください!

 来年10月1日から「インボイス制度(適格請求書保存方式)」が導入されます。まだ時間があると思っても、「適格請求書発行事業者」の登録申請をはじめ、自社が発行する請求書等を「インボイス制度(適格請求書保存方式)」に対応させることなど案外準備には時間がかかります。
 今回は、「インボイス制度(適格請求書保存方式)」への対応の手順等をお知らせします。

1.自社の対応方針の決定

(1) 「インボイス制度(適格請求書保存方式)」への対応の方法
 「インボイス制度(適格請求書保存方式)」開始後は、主として次の3つの対応が考えられます。
① 「適格請求書発行事業者」で本則課税選択
② 「適格請求書発行事業者」で簡易課税選択
③ 「免税業者」
  
 基準期間(個人事業主の場合は前々事業年、法人の場合は前年事業年度)および特定期間(注)の課税売上高が1000万円以上の事業者は、③の免税業者になり、原則として消費税の申告、納付が免除されています。

(注)
 特定期間とは、個人事業主の場合は、その年の前年1月1日から6月30日までの期間、法人の場合は、原則として、その事業年度の全事業年度の開始の日以降6か月の期間をいいます。

 「インボイス制度(適格請求書保存方式)」開始後は、免税業者については、取引先は価格改定や取引の見直しの対応が予想されることも理解しておく必要があります。
なお、免税業者であっても、「適格請求書発行事業者」の登録は可能です。
ただし、その際は、課税業者となります。

(2) 「適格請求書発行事業者」の登録申請
  課税業者で「適格請求書発行事業者」の登録を予定している会社は、すぐに申請を行いましょう。
 登録の完了後は社内で登録番号を共有するようにします。

2.「インボイス制度(適格請求書保存方式)」開始までに対応すべきこと

 本則課税を前提に、令和5年10月1日の「インボイス制度(適格請求書保存方式)」開始までに対応すべきことは次のとおりです。
早めのスタートが望まれます。
(1)自社が発行する請求書等を、適格請求書(以下、インボイス)に対応させるための手順
① 自社が発行する書類を確認する。
② 発行している書類の様式を確認する。
③ インボイスとする書類を確定する。
④ 請求書等に記載する取引金額等の表示方法を決定する。
⑤ 利用しているシステムのインボイス対応を確認する。
⑥ 取引先にインボイスとする書類の様式を通知し、了解を得る。
⑥発行したインボイスの写しの保存方法を確定する。

(2)取引先発行のインボイスの受け取りに対応するための手順
① 取引先が「適格請求書発行事業者」か否かの確認を行う。
② 取引先からのインボイスの受け取り方法を確認する。
③事前に受け取ったインボイスの様式確認を行う(項目が不足しているなどの場合は是正を依頼する)。
④ 受け取ったインボイスからどのように仕訳計上するか、またそのタイミングを決定する。
⑤ 受け取ったインボイスの保存方法を確定する。

3.「インボイス制度(適格請求書保存方式)」対応の優先順位

 上記2.の通り、「インボイス制度(適格請求書保存方式)」開始までに対応すべきことには、
(1)自社が発行する請求書等をインボイスに対応させるための手順
(2)取引先発行のインボイスの受け取りに対応するための手順
の2種類がありますが、最初に、「(1)自社が発行する請求書等をインボイスに対応させるための手順」から始めるといいと思われます。取引先発行のインボイスの様式等は、来年にならなければ判明しない可能性が高く、今から準備しようとしてもできることは限定的です。
 一方で自社が発行する請求書等は、今自社にある請求書等をどう変更させるのか、いつまでに誰がどのように対応するのかを考えることができます。
そこで、今回は、(1)の「自社が発行する請求書等をインボイスに対応させるための手順」の内容をご説明します。
(2)の「取引先発行のインボイスの受け取りに対応するための手順」については、追ってご紹介したいと思います。

4.自社が発行する請求書等をインボイスに対応させるための手順の説明

 自社が発行する請求書等のインボイスへの対応は、遅くとも令和4年中に完了させましょう。
 手順の内容は次のとおりです。
(1)自社が発行する書類を確認する。
 インボイスとは、請求書、納品書、領収書、レシート等の書類の名称に関係なく、登録番号や取引内容、取引金額、消費税額等など法定の記載事項が記載された書類のことです。
まずは、自社の商流から自社が発行している書類のうち、取引先に消費税額を通知している書類を確認しましょう。

(2)発行している書類の様式を確認する。
 次に、自社が発行している書類の様式を確認しましょう。
「インボイス制度(適格請求書保存方式)」では、これまでの「区分記載請求書等保存方式」の記載事項のほか、新たに「登録番号」「適用税率」「税率ごとに区分した消費税額」の記載が必要となります。
 また、不特定多数の者を相手に事業を行う小売業、飲食業、写真業、旅行業、タクシー業等の事業者は、インボイスに代えて、いわゆるレシートのように記載事項が簡略化された「適格簡易請求 (書簡易インボイス)」を発行することができます。
 さらに、自動販売機や公共交通機関等ではインボイスの発行義務が一部免除されます。
 なお、駐車場棟の賃貸などは、契約書に、インボイスとして必要な、「登録番号」「適用税率」「消費税等」の情報の記載が必要となります。既存の契約書で必要な情報が記載されてないものについては、取引先に別途、必要な情報を通知する必要があります。
 
(3)インボイスとする書類を確定する。
 確認した請求書等の書類の中から、インボイスにする書類を確定します。
インボイスは、一つの書類のみですべてを満たす必要はなく、複数の書類で記載事項を満たせば書類全体でインボイスとすることができます。
 B to B取引の事業者において、取引の都度、取引先に商品名を記載した納品書を交付し、請求については、1か月分をまとめた請求書を交付しているケースでは、
①「納品書をインボイスとする」
②「請求書をインボイスとする」
③「納品書と請求書を合わせてインボイスとする」
の3つの方法があり、何をインボイスとするかを決めなければなりません。
 小売業などB to C取引の事業者の場合は、レシートをインボイスとすることができます。

(4)請求書等に記載する取引金額等の表示方法を決定する。
 税額の端数処理は、切り捨て、切り上げ、四捨五入を自由に設定することができます。
 ただし、端数処理は、1つのインボイスにつき税率ごとに1回です。
商品明細ごとの端数処理はできません。

(5)利用しているシステムのインボイス対応を確認する。
 販売管理システム、手書き、Excel、レジ等の種別などインボイスとする書類の作成方法を確認し、その方法が「インボイス制度(適格請求書保存方式)」に対応可能なものかを早急に確認する必要があります。
 令和5年9月以前に、インボイスを発行しても問題はないため、出る限り早く対応を進めましょう。

(6)取引先にインボイスとする書類の様式を通知し、了解を得る。
 自社が交付したインボイスは、課税事業者である取引先では「仕入税額控除」(注)のため保存が必要となりますので、どの書類をインボイスとするか、取引先へ丁寧に説明し、了解を得ておきましょう。

(7)発行したインボイスの写しの保存方法を確定する。
 取引先に交付したインボイスの写しを保存する必要がありますので、保存方法について検討しましょう

(注) 「仕入税額控除」とは
 消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して課されます。例えば、小売業者は商品を消費者に販売時に、消費税を含めた代金を受け取り、卸売業者等からの仕入れ及び経費の支払時に消費税を含めた代金を支払います。
 この販売時に「受け取った消費税(課税売上に対する消費税)」から仕入れ及び経費支払時に「支払った消費税(課税仕入れに対する消費税)」を差し引いて消費税を納める仕組みを「仕入税額控除」といいます。
 「仕入税額控除」を受けるためには、現在と同じく帳簿およびインボイス双方を保存しなければなりません。