「適格請求書発行事業者」登録の準備はできていますか?

 「適格請求書発行事業者」登録にあたって、まずは、「適格請求書(以下、インボイス)」の記載事項、発行方法、発行義務や保存義務など内容をよく理解することが必要です。
 また、販売管理や、請求書発行のシステム利用の場合は、買い替えなどの検討が必要です。さらにこれまで請求書等をもらってない取引先への対応等を早い段階で検討しておくことをお勧めします。

1.「インボイス」の記載事項

 「インボイス」の記載事項は下記のとおりです。マーカーで色付けしているところが、現行の「区分記載請求書」に追加される事項です。
(1)「適格請求書発行事業者」の氏名または名称および登録番号
(2)取引年月日
(3)取引内容(軽減税率の対象品目である旨も含む)
(4)税抜きまたは税込みの対価の額を税率ごとに区分した合計金額とそれぞれの適用税率
(5)税率ごとに区分した消費税額等(端数処理は一請求書あたり、税率ごとに1回のみ)
(6)書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
 
なお、小売業、飲食業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業など不特定多数の者と取引を行う事業の場合は、上記の「インボイス」に代えて「簡易インボイス」を交付することが出来ます。
「簡易インボイス」は「インボイス」で求められている「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」の記載が不要であるうえ、「税率ごとに区分した消費税額等」または「適用税率」のいずれか一方の記載でよいとされています。

2.「インボイス」の発行方法

 「適格請求書発行事業者」は、書面での「インボイス」に代えて、電磁的記録(電子インボイス)を提供することもできます。
 電磁的記録による提供方法としては、光ディスク、磁気テープ等の記録用の媒体による提供のほか、次のような方法があります。
(1)EDI取引(Electronic Data Charge取引 異なる企業・組織間で商取引に関連するデータを、通信回線を介してコンピュータ間で交換する取引等)における電子データの提供
(2)電子メールによる電子データの提供
(3)インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じた電子データの提供
など

3.発行義務  

 「適格請求書発行事業者」は、「インボイス」の下記にあるような交付義務が免除される場合を除き、取引先から要求された際は、「インボイス」を交付する義務があります。
 また、「インボイス」の記載に誤りがあった場合は、修正した「インボイス」を交付しなければなりません。ただし、当初に交付した「インボイス」との関連性を明らかにしたうえで、修正した事項を明示した書類を交付することもできます。
 なお、「区分記載請求書」方式とは異なり、交付を受けた事業者側で「インボイス」の追記や修正をすることはできません。

「インボイス」の交付義務が免除される場合
(1)公共交通機関(3万円未満)
(2)出荷者側が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売
(3)生産者が農協等に委託して行う農林水産物の販売
(4)自動販売機および自動サービス機での販売(3万円未満)
(5)郵便ポストに投函される郵便物

4.「インボイス」の保存義務

 「インボイス」は、買手だけでなく売手側にも交付した書類の写しの保存義務があります。
保存期間は、交付または提供した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間です。

5.虚偽記載・類似書類の交付禁止

 「適格請求書発行事業者」は、虚偽の記載をした「インボイス」を交付することはできません。
また、「適格請求書発行事業者」でない事業者が、「インボイス」に類似した書類を交付することも禁じられています。

6.販売管理、請求書発行システムの買い替え

 1.の「インボイス」の記載事項のとおり「適格請求書発行事業者」の登録番号の記載など、「インボイス」は現行の「区分記載請求書」よりも記載事項が増えます。フォーマットの変更や記載方法、計算方法の確認など十分な準備が必要です。

7.お客様対応、社員教育  

 商品やサービスごとに税率が異なることについてお客様からの質問に回答できるよう従業員教育が引き続き求められるほか、システム変更等に伴う教育訓練等も必要になると思われます。
「インボイス」の再発行や修正対応方法、社内連絡の手順なども想定に入れておく必要があるでしょう。
 また、固定料金を口座から引き落としている場合などこれまで請求書等をもらってなかった取引先に対し、「インボイス」の発行・受け渡しをどのように行うのか、事前に確認することをお勧めします。

8.仕入先・購入先の確認  

 令和5年10月1日以降、経過措置はありますが、「適格請求書発行事業者」からの仕入れや購入しか「仕入税額控除」※の対象となりません。そのため、免税業者やインボイス発行に対応していない課税事業者からの仕入れや購入について「仕入税額控除」が出来なくなります。
 こうした業者からの仕入れや購入がある場合、令和5年10月1日以降も取引を継続した場合は消費税の納税額が増えることも考えられます。
その業者が「適格請求書発行事業者」の登録を行うのか、登録を行わなくても引き続き取引を続けるのかなど事前に検討しておく必要があります。
 また、店舗、事務所、駐車場等の賃料支払についても「仕入税額控除」の対象になるのか確認が必要です。
 

※「仕入税額控除」とは
 消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して課されます。例えば、小売業者は商品を消費者に販売時に、消費税を含めた代金を受け取り、卸売業者等からの仕入れ及び経費の支払時に消費税を含めた代金を支払います。
 この販売時に「受け取った消費税(課税売上に対する消費税)」から仕入れ及び経費支払時に「支払った消費税(課税仕入れに対する消費税)」を差し引いて消費税を納める仕組みを「仕入税額控除」といいます。