「インボイス制度(適格請求書保存方式)」開始後に「仕入税額控除」を適用するための留意点

 「仕入税額控除」とは、販売やサービス提供時に「受け取った消費税(課税売上に対する消費税)」から仕入れ及び経費支払時に「支払った消費税(課税仕入れに対する消費税)」を差し引いて消費税を納める仕組みのことをいいます。
 「仕入税額控除」を受けるためには、現在と同じく帳簿および請求書双方を保存しなければなりません。

1.「仕入税額控除」を受けるために必要なこと

 「仕入税額控除」を受けるには、「適格請求書(以下、インボイス)」だけでなく法定事項が記載された帳簿の保存が必要とされています。帳簿の記載事項は、現在の制度と変わりはありません。
取引によっては、「インボイス」の保存を省略し、帳簿のみの保存で「仕入税額控除」が認められる場合があります。
(1) 帳簿の記載事項
 ① 仕入先の氏名または名称
 ② 取引年月日
 ③ 取引内容(軽減税率対象品目である旨)
 ④ 取引金額
(2) 保存義務のある「インボイス」等
 ① インボイス
 ② 簡易インボイス
 ③ 事業者が課税仕入れにつき作成する仕入明細書等で、インボイスの記載事項が記載されているもの
 ④ 媒介または取次に係る業務を行う者が委託を受けて行う農林水産品の譲渡について作成する書類
 ⑤ 上記①~④の記載事項に係る電磁的記録
(3)「インボイス」の保存義務が免除されるもの
 ①公共交通機関による旅客の運送(3万円未満)
 ②入場券等が使用の際に回収されるもの
 ③古物営業者による「適格請求書発行事業者」でない者からの古物の購入(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)
 ④ 質屋による「適格請求書発行事業者」でない者からの質物の取得(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)
 ⑤ 宅地建物業者による「適格請求書発行事業者」でない者からの建物の購入(宅地建物業者を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)
 ⑥ 「適格請求書発行事業者」でない者からの再生資源および再生部品の購入(購入者の棚卸資産に該当するものに限ります。)
 ⑦ 自動販売機および自動サービス機からの商品、サービスの購入(3万円未満)
 ⑧ 郵便切手類を対価とする郵便、貨物サービス(郵便ポストに投函されたものに限る。)
 ⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当等
 なお、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合に帳簿の保存のみで「仕入税額控除」が認められる現行の制度については廃止されます。

2.その他の留意点

(1)立替金
 B社が自社の代わりにC社へ立替払いをして、その結果C社からB社に交付された「インボイス」は、自社の「インボイス」とすることはできません。
立替払を行ったB社から立替金精算書等の交付を受けることなどにより、経費の支払先であるC社からの課税仕入れが自社のものであると明らかにされている場合には、その「インボイス」および立替金精算書等の書類の保存により、課税仕入れに係る請求書等の保存要件を満たすこととなります。なお、この場合、立替払を行うB社が「適格請求書発行事業者」以外の事業者であっても、C社が「適格請求書発行事業者」であれば「仕入税額控除」を行うことができます。
(2)複数の書類による対応
 「インボイス」とは、一定の事項が記載された請求書、納品書等の書類をいいますが、一の書類のみですべての記載事項を満たす必要はありません。
 例えば、請求書と納品書など、相互の関連が明確な複数の書類全体で記載事項を満たしていれば、これら複数の書類を合わせて一つの「インボイス」とすることができます。
(3) 口座振替等による支払
 契約書に基づき代金決済が行われ、取引の都度、請求書や領収書が交付されない取引であっても、「仕入税額控除」を受けるためには、原則として「インボイス」の保存が必要です。
「インボイス」は、一定期間の取引をまとめて交付することもできますので、相手方から一定期間の代金について「インボイス」の交付を受け、保存することで対応が可能です。
 なお、複数の書類で記載事項を満たせばそれらの書類全体で「インボイス」の記載事項を満たすこととなりますので、契約書に「インボイス」として必要な記載事項の一部が記載されており、実際に取引を行った事実を客観的に示す書類とともに保存しておけば、「仕入税額控除」の要件を満たすこととなります。
 例えば、家賃の場合に、「インボイス」の記載事項の一部(例えば課税資産の譲渡等の年月日以外の事項)が記載された契約書とともに通帳(課税資産の譲渡等の年月日の事実を示すもの)を併せて保存することにより、「仕入税額控除」の要件を満たすこととなります。
また、口座振込により家賃を支払う場合も、「インボイス」の記載事項の一部(例えば課税資産の譲渡等の年月日以外の事項)が記載された契約書とともに銀行が発行した振込金受領書(課税資産の譲渡等の年月日の事実を示すもの)を併せて保存することにより、「仕入税額控除」の要件を満たすこととなります。