消費税の免税事業者が「インボイス制度(適格請求書保存方式)」に対応する場合の留意点

 令和5年10月から「インボイス制度(適格請求書保存方式)」が開始されます。
これに伴い、消費税の免税事業者は、「適格請求書発行事業者」にならないと「インボイス」を発行することができなくなります。
 今回は、消費税の免税事業者が「インボイス制度(適格請求書保存方式)」開始にあたって留意すべき点をまとめました。

1.消費税の免税事業者は、そのままでは「適格請求書発行事業者」になれません

 消費税の課税事業者は「適格請求書(以下、インボイス)」の保存をもって「仕入税額控除」(注)を受けることができます。逆に言えば「インボイス」がない課税仕入れについては、原則として「仕入税額控除」(注)を受けることができません。
 また、「インボイス」を発行できるのは、消費税の課税事業者である「適格請求書発行事業者」に限られます。
つまり、消費税の免税事業者のままでは「インボイス」を発行できません。
得意先が消費税の課税事業者である場合には、消費税の免税事業者からの仕入れを避けることや、消費税部分の値引き要請を行うことも考えられます。また、自社が消費税の免税事業者であっても、仕入先が消費税の課税事業者の場合、仕入金額には当然のように消費税額を加算されます。消費税の免税業者である限りこの税額を控除する方法はありません。
 消費税の免税業者からの仕入れには6年間の経過措置がありますが、得意先の経理処理が煩雑となることから取引そのものが敬遠される恐れがあることには変わりはありません。

(注)
「仕入税額控除」とは
 消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して課されます。例えば、小売業者は商品を消費者に販売時に、消費税を含めた代金を受け取り、卸売業者等からの仕入れ及び経費の支払時に消費税を含めた代金を支払います。
 この販売時に「受け取った消費税(課税売上に対する消費税)」から仕入れ及び経費支払時に「支払った消費税(課税仕入れに対する消費税)」を差し引いて消費税を納める仕組みを「仕入税額控除」といいます。

2.令和5年3月までに消費税の課税事業者になるかを判断しましょう

 令和5年10月から「適格請求書発行事業者」になるためには、原則として令和5年3月末までに適格請求書発行事業者登録申請を行わなければなりません。現在、消費税の免税事業者が、「インボイス制度(適格請求書保存方式)」開始と同時に「インボイス」を発行するためには、原則として令和5年3月末までに「適格請求書発行事業者」になる決断をし、申請する必要があります。
 消費税を計算する手間、納税資金の確保などメリット、ディメリットを確認の上対応しましょう。

3.「簡易課税制度」の適用も検討しましょう

 消費税の課税事業者になる選択をした場合には、「簡易課税制度」の適用を検討しましょう。
「簡易課税制度」とは、基準期間(個人事業主は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の場合、事前に届出書を提出することで、本則課税に代えて、適用することができる方法です。
 「簡易課税制度」では、売上げに係る消費税額に、事業の種類の区分(事業区分)に応じて定められた「みなし仕入率」を乗じて算出した金額を仕入れに係る消費税額として、売上げに係る消費税額から控除することになります。なお、「簡易課税制度」を選択した場合は、2年間継続する必要があります。
 「みなし仕入率」は、事業ごとに決まっており、第1種事業の卸売業や第2種事業の小売業など6つの事業に区分されており、それぞれの「みなし仕入率」は下記のとおりです。

事業の種類             該 当 す る 事 業みなし仕入率
第1種事業卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に
対して販売する事業)
90%
第2種事業小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業
で第1種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)
80%
第3種事業農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業
(製造小売業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第1種事業、
第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の
提供を除く
70%
第4種事業第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業をいい、
具体的には、飲食店業など
なお、第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の
提供を行う事業も第4種事業となる
60%
第5種事業運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除く)をいい、
第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除く
50%
第6種事業不動産業40%

 一般的には、みなし仕入れ率の高い卸売業や小売業は「簡易課税制度」を選択するほうが有利な場合があります。また、消費税が課されない人件費の多い弁護士、開業医なども「簡易課税制度」を選択するほうが有利となる場合があります。「簡易課税制度」では実際の課税仕入れ等の税額を計算する必要がありませんから、「インボイス」の保存は求められません。
 税金や事務の負担などメリット・ディメリットなど十分に検討して対応することをお勧めします。